湯快リゾート株式会社 データ基盤を3ヶ月で構築したプロジェクトマネジメントの要諦

  
湯快リゾート株式会社 事例

西日本を中心に30の旅館・ホテルを運営する湯快リゾート株式会社が、マスメディア中心のマーケティングからデジタルとの統合マーケティングを開始したのは約5年前。2022年にはマーケティングDXと銘打ったプロジェクトを立ち上げ、パートナー選択のためのコンペを実施しTreasure Data CDPを導入、運用開始から数ヵ月で着実に成果を積み上げています。マーケティングDXプロジェクトがここまで順調に進んできている背景には、ビジョン達成のためのメンバーの強い意志と、それを支えるパートナー企業の深いビジネス理解があったと言います。今回はプロジェクトの中心メンバーである湯快リゾート株式会社 セールス&マーケティング部の渡邉啓介氏と梅村洋介氏に、Treasure Data CDP導入前から湯快リゾートのマーケティングを支援しているインキュデータ株式会社 ソリューション本部の鈴木一志が同席の下お話を伺いました。

    Contents

    1.  リゾート再生モデルと「圧倒的な取捨選択」
    2.  お客様とのダイレクトな関係を重視してきたマーケティング活動
    3.  ファクトを積み重ねてデジタルへの社内理解を高める
    4.  サイロ化したデータを統合、活用し、顧客体験の向上とビジネスの成果に結実させる
    5.  ビジネスへの深い理解に基づく最適な人員配置とコミュニケーション
    6.  データをきっかけに笑顔の連鎖を生み出したい

    リゾート再生モデルと「圧倒的な取捨選択」

    ―湯快リゾートの事業について教えてください

    渡邉氏:
    西日本に宿泊施設を30館運営しています。スタンダードな「バイキング」、サービスをベースアップした「プレミアム」、趣ある和風旅館で会席料理を提供する「会席」、女性にうれしいサービスを充実させた「女性専用」、ペットと泊まれる宿をテーマにした「わんちゃん専用」旅館の5タイプを展開します。

    2003年の参入当初は1泊7800円かつ近隣の都市からの直行往復バスが2000円と、圧倒的な低価格路線でした。温泉地まで3時間以内の商圏で、近隣のお客様に何度も訪れていただくというビジネスモデルで、宿泊施設のクオリティを高めてリピート利用を増やし、またグループ施設間で相互送客して、高い稼働率を維持しています。

    湯快リゾート株式会社 渡邉啓介 氏

    また本来、宿泊施設をゼロから作り上げるのは非常にコストがかかるのですが、私たちは「リゾート再生モデル」を掲げ、有名な温泉地のホテル、旅館施設を買収しリニューアルすることで初期コストを大幅に削減、地域における人の往来を増やし、雇用を維持し、地元を活性化することを理念としています。

    梅村氏:
    社内では「圧倒的な取捨選択」と呼んでいるのですが、従来の旅館の事業モデルから、「捨てるべきところは捨てる」ことを徹底しています。 例えば、私たちの施設には仲居さんがいません。荷物はお客様ご自身でお部屋まで運んでいただきますし、事前に布団は敷いておきます。 浴衣はフロントでお客様に選んでいただきますし、食事は大きな会場にて、バイキングで提供します(会席タイプ除く)。オペレーションを徹底的に効率化して、低価格で満足度の高いサービスを提供するのが我々の戦略です。

    ―TVCMはサウンドロゴも含めて印象に残っていますし、特に関西でのブランド認知は非常に高いですよね。
    そのなかでブランドパーパスを刷新されました。

    渡邉氏:
    湯快リゾートは、元々はオーナー企業としてカラオケ店などを運営する企業のグループ会社でしたが、2019 年に運営、グループを離脱して独立した経緯があります。独立したことにより、今まで牽引してくれていたオーナーシップがなくなり、意思決定のプロセスから作り直す必要に迫られました。
    企業全体で、従業員の意思の拠り所になるような、湯快リゾートの存在意義を言語化するために、2021〜2022年にかけて経営理念とブランドパーパスを刷新しました。

    現場、本社の従業員で討議を重ね、有識者の方から温泉の本質について学ぶなど、さまざまなプロセスを経て策定したのが「湯快リゾートブランド2.0」です。「笑顔の源泉に」というパーパスは、「日本の温泉を身近にする」という創業時の精神を進化させました。
    温泉地の復活、地域貢献をしながら、お客様により温泉を楽しんでいただけるようなサービスを提供しています。

    お客様とのダイレクトな関係を重視してきたマーケティング活動

    ―おふたりが所属する組織について教えて下さい。

    渡邉氏:
    私が責任者をつとめるセールス&マーケティング部マーケティング課は、宣伝広報、CX、クリエイティブ、Webを担当する4チーム、16名で構成されています。 ブランド戦略の構築、顧客体験価値の向上など、コミュニケーション領域を中心に幅広く活動しています。

    梅村氏:
    私はセールス&マーケティング部マーケティング課の宣伝広報チーム兼CX推進チームでリーダーを務めています。ファーストパーティデータを活用してより深くお客様を理解し、パーソナライズされたコミュニケーションをシステム化する取り組みを推進しています。

    湯快リゾート株式会社 梅村洋介 氏

    鈴木:
    私はセールス&マーケティング部の前身となる組織からのお付き合いで、当時は博報堂として、そして2022年4月にインキュデータに出向してからも一貫して湯快リゾートのマーケティング活動全般に従事させていただいております。

    ―マーケティングを推進するにあたって、どのような課題がありましたか?

    梅村氏:
    宿泊業界では、JTBなどの旅行代理店、最近ではじゃらんnetや楽天トラベルといったOTA(オンライントラベルエージェント)の集客サービスが強いのですが、それらのチャネルを経由した予約には当然手数料がかかります。私たちのように低価格で収益を確保するためには、ダイレクトチャネルのお客様を増やすことが、マーケティング上大変重要な課題と認識していました。

    湯快リゾートでは創業当時から、紙でお送りする従来のダイレクトメール、オンラインのメール、自社Webサイトでのアプローチを重視しています。ダイレクト予約の比率は、半数以上を占めています。

    ―非常に高い水準ですね。どのような方にご利用いただいていたのでしょうか?

    渡邉氏:
    60代以上の夫婦、カップルが最も多く、メールマガジン登録者を分析しても40代以上が半数以上です。これは回答者の属性となりますので、ご家族でご利用されるグループの場合はお子さんがまだ小さいご家庭のグループと想定されます。

    ―会員数はどれくらいいらっしゃいますか?

    渡邉氏:
    メール会員が約60万人です。年輩の方は紙のダイレクトメールのほうが反応が良いと推測していますが、実はメールマガジンもよく見てくださるのでレスポンスはどちらも変わりません。ただし、紙は発送費がかかりますから、メールマガジンのほうが費用対効果は高いですね。

    鈴木:
    湯快リゾートの顧客コミュニケーションには一貫して顧客とのダイレクトな関係を重視してきた文脈があり、これはデジタルマーケティングとの親和性が非常に高いと考えています。

    ファクトを積み重ねてデジタルへの社内理解を高める

    渡邉氏:
    活動の変遷を鑑みると、当初はマスメディア偏重のマーケティングを中心に行っていました。Webのリスティング広告も多少は出稿していましたが、大半は新聞広告、テレビCM、紙のダイレクトメールでコストの大半を占めていました。

    その潮流が変化したのは、2018年に鈴木さんから湯快リゾートのビジネスにおいて、お客様との最適なコミュニケーションは何かという視座を高くした話をいただいたことがきっかけでした。マス広告は弊社にとって必要なコミュニケーション施策のひとつですが、マス広告で対応できないところを補う必要性もあり、デジタルを活用したコミュニケーション施策にも取り組み始めたのです。最初は数十万円のデジタル広告から始め、実行と検証を繰り返しながら数カ月後には数千万円の予算をかけるまでに至りました。

    インキュデータ株式会社 鈴木一志
    インキュデータ株式会社
    鈴木 一志

    ―マスマーケティングの重要性も認識しつつ、デジタルに取り組まれたということですね。

    渡邉氏:
    目指したのはマスマーケティングとデジタルマーケティングの統合です。両者を最適に活用するプランニングを進めて、湯快リゾートを持続的に成長させたいと考えていました。デジタル広告はそのはじまりです。
    ただし、当初は社内でも、デジタルマーケティングで集客することができるのか、という懐疑的な見方が主流でした。デジタル広告からしっかりと予約を獲得してリターンが得られていることを、数値として提示して証明する必要がありました。

    鈴木:
    デジタルの活用は効果があるというファクトを用意して、渡邉さんが社内に啓発をするという活動を地道に積み重ねていきました。 その取り組みの一つの結果としてTreasure Data CDPの導入につながっていくのですが、私たちが詳しく説明する前から「当時、異なるシステムで管理していたデータを統合すれば有益なことができる」というイメージを、渡邉さんと梅村さんがお持ちだったことには驚きました。

    梅村氏:
    マス広告主体の時代には、投資対効果でしかみておらず、その過程においてどのようなアプローチをしているかに興味関心を持つ人は社内にいませんでした。ゆえに、デジタル広告を活用しはじめた頃は、お客様を一括りにするのではなく、まだ湯快リゾートのことを意識していない潜在層や、旅行先の候補として認知してくれている顕在層などに分類し、それぞれ伝える情報を変えていくなどの基本的なマーケティングの考え方を社内に説明しても、理解を得ることは難しかったのです。そのため、初期段階ではコンバージョン(宿泊予約をゴールとする)の獲得に集中して結果を積み重ね、将来的にはいわゆる「刈り取り」だけではない、お客様の旅の前後も含め、有益な情報を提供するコミュニケーションを取りたいと考えていました。実績に基づく啓蒙活動が実り、社内で少しずつデジタルマーケティングへのリテラシーが高まっていった結果、データを活用したマーティング構想が実現へ向けて動き出しました。

    サイロ化したデータを統合、活用し、顧客体験の向上と
    ビジネスの成果に結実させる

    ―Treasure Data CDPの導入以前、データの収集と管理はどのようにされていたのですか?

    渡邉氏:
    ひとつはPMS(Property Management System)という宿泊施設向けのシステムにお客様の宿泊情報を格納していました。また、メールマガジン会員と紙のダイレクトメール会員を異なるデータベースで保持しており、管理主体も、PMSがシステム部門、メールマガジンがマーケティング部門、紙のダイレクトメールは営業企画部門でした。

    ―まさにサイロ化している状態だったと。

    渡邉氏:
    管理主体も格納先も異なるデータを統合して運用しなければならないという課題感が、プロジェクトの前提にありました。
    例えば、キャンペーン情報をメールマガジンでお知らせして開封いただいているお客様に、紙のダイレクトメールをお送りしてムダなコストをかけてしまう。あるいは、ご予約されているお客様に割引クーポンを送ってしまうなど、機会損失が多く発生していました。

    梅村氏:
    お客様の正しい理解ができていなかったのも問題です。今宿泊されているお客様が、メールマガジンかダイレクトメールの会員であるかもわからない状態では、最適なサービスの提供は難しいと考えていました。

    ―Treasure Data CDPとインキュデータを選択し、導入した経緯を教えてください。

    渡邉氏:
    Treasure Data CDP は7〜8年ほど前に展示会に出展されていたことを覚えています。当時は仕組みなど理解が追いつかず、「このようなことが世の中で起きているのだ」くらいの認識でしたが…。
    いざ、自分たちでお客様のデータを統合する必要が生じた時、CDPが活用できるのではないかと考えるようになりました。データのサイロ化を解消して、マーケティングで一連のおもてなしのような体験を作り出せるのではないかというイメージが湧きました。 その後、インキュデータからデータを活用したコミュニケーション施策の提案を受けて、理解が深まりました。実はもう一社からもデータ統合のシステムとしては、Treasure Data CDPの提案を受けていましたが、インキュデータの提案は、私たちのビジネスを理解し、やりたいことと一致していたことが導入の経緯です。

    図:想定するシステム(提案書より一部改訂)
    図:想定するシステム(提案書より一部改訂)

    ―特に重視したのはどういった要件だったのでしょうか?

    渡邉氏:
    データを活用することで、お客様の価値に転換でき、当社の収益につながること。そして、私たち自体で運用できるものであることです。湯快リゾートは大きいシステム部門を持っているわけではありません。元々ITのリテラシーが高いとも言えませんので、システムの導入と成果を出すことと並行して、社内リソースの育成も行ってほしいという、少しわがままな依頼をしました(笑)

    鈴木:
    そもそもの話ですが、優れたビジネスモデルで利益率も非常に高く、ビジネスが好調な時期にも関わらずDXへ本格的に取り組み競争力の強化や価値変換を見据えて投資に踏み切るのはものすごいことだと思います。 その心意気に多少のわがままも請けざるを得ません(笑)

    ビジネスへの深い理解に基づく
    最適な人員配置とコミュニケーション

    鈴木:
    インキュデータからは「データを集める」、「見る」、「サービス/情報を届ける」という3つのキーワードで、システムの全体像を提示しました。読み手側のマーケティングリテラシーやITリテラシーに関わらず、システム導入の目的を示す最もシンプルな言葉です。

    「データを集める」のはTreasure Data CDPです。データを統合するだけであれば他のツールでも可能かもしれませんが、コネクティビティや運用メンテナンスを考慮しました。「見る」は、いわゆるデータを可視化するBIです。また「サービス/情報を届ける」は、パーソナライズしたコミュニケーションのためのMAツールです。
    湯快リゾートのビジネスに即した最適な組み合わせをご提案できたと考えています。

    湯快リゾート株式会社 グループ写真

    ―プロジェクトはどのように進行したのでしょうか。

    梅村氏:
    2022年8月に要件定義を行い、9〜10月で構築、11月にはリリースと、スピーディに導入できました。

    ―非常に早いスピードでリリースされていますね。

    渡邉氏:
    現在、アジャイル的に開発を続けながら、私たちのトレーニングも進めている状態です。現段階でやりたかったことは、すべて実現できています。

    鈴木:
    インキュデータは博報堂とトレジャーデータのジョイントベンチャーという立場で、マーケティング領域を担当する博報堂と、テクノロジーのトレジャーデータを連携させ両社のリソースを最大限に活かしたチームを提案しました。特に湯快リゾートの構想する統合マーケティングを実現するために、ビジネス要件を理解しているメンバーをリーダーとしてアサインし、プロジェクト体制を構築したことがスムーズなプロジェクト進行の要因だと思います。

    渡邉氏:
    弊社のプロジェクトメンバーが各々当事者意識を持って取り組んでくれたことも大きな要因の一つと言えます。また、プロジェクトには所属が異なる多くのメンバーが参画していますが、各社メンバー間で適切な頻度で情報の漏れなく、チャットやオンライン会議を通じて丁寧なコミュニケーションが行われています。さらに必要に応じてオフラインでも会話する機会を作り、鈴木さんを中心としたプロジェクトメンバーは、現地の宿泊施設にも視察に来てくださり、お客様の様子も見ていただいていますので認識の齟齬が起こりません。

    良好なコミュニケーションが取れる状態を構築し実行されていることがプロジェクトの成功要因だと思っています。
    サポートチームの尽力に大変感謝しています。

    データをきっかけに笑顔の連鎖を生み出したい

    渡邉氏:
    プロジェクトのひとつめのフェーズは、2023年3月に終わる見込みです。今手元にあるデータが統合され、それに基づきメールマガジン、紙のダイレクトメール、自社Webサイトでのマーケティング施策を実施できている状態が目標です。

    2023年度は、例えばアンケートデータの取り込みなど、お客様の理解をより深めるためのデータを増やしていきたいと考えています。施策レベルでは、MAを使ったシナリオをたくさん作り、収益のベースを上げていくような活動を進めていきたいと思います。

    湯快リゾート株式会社 グループ写真

    ―具体的に進んでいるマーケティング施策を教えて下さい。

    渡邉氏:
    メールでのデータ活用と、自社Webサイトにおけるポップアップ、プッシュ通知などが実装されています。
    メールは、会員に対して全体配信していた過去のメールマガジンと、可能な範囲でターゲティングを行って配信している現在を比較すると、予約獲得ベースで160%の成果が出ています。

    ―既に目に見える数値で成果が出ているのですね。

    渡邉氏:
    全体の費用対効果を測定するだけでなく、メールを受信され、開封されたお客様が、メール文面からWebサイトにアクセスしてある施設を予約したという行動のトラッキングもできるようになっています。Treasure Data CDPでデータを統合したから可能になったことです。

    また、直近で構想しているのは、ある温泉地の施設に宿泊したお客様には、次にどんな施設をおすすめするとリピートいただけるか、そのためには宿泊から何日後のコミュニケーションが最適か、といった仮説を順次作って、実行するというものです。社内にはお客様の要望を肌で知っている実務経験者が多くいるので、施策のアイデアには事欠きません。

    また、データを扱う博報堂メンバーからのアイデアも面白いですね。私たちだけでは固定されてしまいがちな視野を広げてくれます。例えば、現地の宿泊施設に来て、館内で読めるマンガのコレクションを見て「これは特定の層に深く刺さる」とアドバイスをもらえたりします。そういった特定のお客様層に対して、新しいコミュニケーションのカタチを見つけられたらと考えると、とても興味深いです。少し先のステップとして、お客様への理解を蓄積したデータを基により深めていき、施策に反映していきたいと思います。

    ―湯快リゾートにとっての顧客データとはどういった存在でしょうか?

    梅村氏:
    「原石」でしょうか。「お客様の笑顔の原石」です。

    渡邉氏:
    まさに、データを原点とした、データ起点のマーケティングによって、お客様も想像していないような価値を、私たちから提示できればよいと考えています。
    将来的にはマーケティングだけでなく、お客様とのタッチポイントを最適化し、一連のデータを接客サービスや予約コールセンターにも連携していきたいと考えています。良いサービスによってお客様が笑顔になっていただけると、従業員にも「やりがい」という形で返ってきますよね。データをきっかけに、必ず良い連鎖が生まれてくると信じています。

    •  インタビューにお答えいただいた方の部署、役職名は取材当時のものです
    •  会社情報は取材当時のものです
    •  記載されている会社名および製品・サービス名は、各社の登録商標または商標です