DXを進化・成長させる顧客理解 - 顧客やコミュニティを理解することから生まれるブレイクスルー

あらゆる業界において各企業が取り組みを進めているデジタルトランスフォーメーション(DX)。DXを推進するための重要なキーワードが「顧客理解」です。

本記事では、アパレル業界とゲームアプリ業界の事例を通じて、DXを進化・成長させる顧客理解について解説いたします。

DXが進化・成長したアパレル業界

業界を問わずDXの先進事例が多く生まれたのがアメリカでした。しかし、日本にDXの波が到来するまでには時間がかかりました。「アメリカで成功した事例が日本でも成功するのだろうか?」という疑問があり、日本企業が二の足を踏んでいたからです。

これをいち早く乗り越えたのがアパレル業界です。洋服やアクセサリーといったアイテムを扱うアパレル業界では、トレンドを把握するために顧客データを分析すること(個客分析)が当たり前になっていました。先行事例を調査して、自社の仕様に合わせてチューニングする。必要な投資をして、PDCAを回す。そういった習慣があったおかげで、結果的にDXが起こりやすかったのです。

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もう少し具体的な事例をお話しましょう。

実店舗とeコマースで販売を行っているあるアパレル企業が、それぞれのチャネルの顧客データを統合して分析を行いました。すると、店舗とeコマースの両チャネルをともに利用しているユーザは、単一のチャネルしか利用していないユーザに比べて、LTV ※1 が3倍高いということがわかりました。また、両チャネルを利用しているユーザの全体の売上に占める割合は40%に上りました。

一方、eコマース利用者に対して行った個別調査からは「購入した商品を仕事帰りに駅前の店舗で受け取りたい」「初めて買うブランドはサイズがわからないのでeコマースで買うのは抵抗がある」といった回答が得られました。

チャネルを統合してデータ分析を行い、さらに顧客一人一人を深く理解することによって、O2O(Online to Offline)※2 やOMO(Online Merges with Offline)※3 といった概念に沿った事業戦略を立案できるようになります。具体的な戦略としては、チャネル横断的な在庫管理を実現するためのシステム改修や、店舗での試着予約がアプリからできる新規サービスの開発といったことが考えられます。

このアパレル企業は、顧客データ統合と分析に基づいたファクトを持つことにより、大規模な投資や組織変革といった大きな意思決定が実行できました。これが「顧客理解からDXが始まる」ということです。

成果を生み出すのは、顧客理解に基づいたマーケティング施策

こうした事例をそのまま自社に当てはめるのではなく、自社ならではの課題を考えることが大切です。成功事例の表面ではなく、本質を知ることが重要だといえるでしょう。ここからは、成功事例を真似したがゆえに失敗してしまったケースを紹介いたします。

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アパレル業界のA社が自社アプリを開発しました。このアプリには店舗から5キロ圏内のユーザを対象にコインボーナスをプッシュ通知する機能があり、前週比で15%の売上アップを実現しました。また、購買金額が1万円未満のユーザに対して500円クーポンをプッシュ配信しました。これによって次の購買行動が促され、店舗購入の回数を増やすことにも成功しました。

これは、他社が参考にできそうな良い事例に思えます。しかし、このA社の事例と同じ施策を試してみたB社では、期待する効果が得られませんでした。

なぜB社は成果が得られなかったのでしょうか。そもそもA社が行った施策の背景には、自社の商品特性やサービス品質に関する深い認識、それに関する徹底的な顧客理解による裏付けがありました。

A社は、まず各部門や各チャネル、オンライン・オフライン・外部データのすべてを統合することから始めていました。統合されたデータを分析することで、オンラインとオフラインの両チャネルにおいて顧客理解ができるようになりました。その上で、先ほど紹介したようなアプリ開発などの施策を実施していきました。つまり、A社の事例から学ぶべきことは自社アプリ開発の重要性ではなく、顧客理解に基づいた施策の重要性でした。

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自社の商品特性と顧客理解をブレイクスルーにつなげる

B社はこの失敗で終わりませんでした。失敗から学び、大きなブレイクスルーを起こしたのです。最初に取り組んだのは顧客理解です。オンラインとオフラインのデータを統合し、分析を始めました。

eコマースサイトの閲覧状況などを分析することで、B社ブランドのアクセサリーやバッグといった小物類が、カートに入るものの購入にまで至っていないということが、定量的な指標から明らかになりました。さらにユーザにアンケートを取ることで、B社のブランドの商品に対して、かわいい・おしゃれといった印象を抱いているものの、利用シーンが限定されていて使いづらいといった定性情報も見えてきました。

B社はこうしたデータを踏まえて、アクセサリーやバッグをレンタルし放題のサブスクリプションサービスを開始して、収益を増加させたのです。このブレイクスルーは、先のデータやアンケート結果を踏まえた上で、海外の先行事例でもあるサブスクリプションモデルが適合するのではないかと仮説を立てたことから生まれました。

このケースは、海外の先行事例をうまく取り入れたことで成功したようにも見えるでしょう。しかし、A社にもB社にも共通していえることですが、最初に本質的な顧客理解があってこそ成功につながるのです。

ゲームアプリから見る、コミュニティ理解による収益の安定成長

次に、ゲームアプリ業界の事例をご紹介いたします。ゲームアプリの場合は、顧客理解に加えてコミュニティ理解が求められます。この二つがあってはじめて、ビジネスの収益は安定的に成長していきます。

ある課金型ゲームアプリを提供する企業がとった、ユーザ獲得戦略のマーケティング手法をご紹介いたします。

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このアプリの売上の80%は、ごく一部の極端に高額課金をするユーザ(超課金ユーザ)が占めていました。そのためマーケターは、このユーザ層をどのように増やしていくかに絞って施策を実施していました。しかし、獲得したユーザが必ずしも超課金ユーザになるわけではなく、収益の再現性も得られませんでした。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。その答えのポイントは、やはり顧客理解でした。

はじめに、①課金額と②アプリをどれだけ利用しているかの2軸を設定し、それらによって顧客を6つに分類しました。具体的には、①課金額の大・小・なし、②利用度合いの高・低を掛けあわせ、それぞれを「ランカー」「リッチ」「課金“ガチ”」「気まぐれ」「無課金“ガチ”」「暇つぶし」の6つに分類したのです。

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すると「各ユーザ層のバランスが一定になっているときに収益が非常に安定する」という、とても興味深い結果が発見されました。これはいったいどういうことでしょうか。例えば、ランカー層は課金ガチ層が増加すると、自分のランクを維持するために課金します。課金ガチ層は無課金ガチ層が増加すると、彼らに勝とうとして課金します。反対に、無課金ガチ層がゲームをやめてしまうと、課金ガチ層は張り合いがなくなってゲームをやめてしまい減収につながるのです。

顧客ポートフォリオの構成比バランスを考慮した施策展開で、安定した収益成長を実現

こうした顧客理解によって、これまでのようにランカー層や課金ガチ層に絞った施策を行うのではなく、6分類のユーザをバランスよく維持しながら増やしていく施策が必要だという結論に至りました。そして、このゲームアプリでは、顧客ポートフォリオの構成比をモニタリングするようにし、ユーザ層のバランスが崩れたときにアラートが通知される仕組みをつくったのです。

例えば、無課金ガチ層が減ってきたら、初回限定のキャンペーンを実施したり、そのキャンペーンをテレビCMやWeb広告で告知したりといった施策を打ちます。Web広告については、 Google やYahoo、SNSといったそれぞれの媒体にどれだけ配信すると無課金ガチ層の新規流入が増えるのか、理想的なユーザバランスが保たれるのかといった分析も実施しました。

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このように分析と施策のPDCAサイクルを回すことで、ポートフォリオのバランスを保ちながら会員数を増やし、全体の課金額を増加させていくことができるようになりました。売上に直接影響のあるユーザ層だけにフォーカスするのではなく、コミュニティ全体を理解することが成長の秘訣だということです。

顧客理解がすべての起点になる

最後に、本記事で提示したDXを推進する上での3つのポイントをあらためて整理します。

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第一に、なにより重要なことは顧客理解です。なぜなら、顧客理解に基づいたファクトこそが、大規模な投資や組織編成の後押しになるからです。

第二に、他社の表面的な施策のみを真似しても効果は薄く、背景までを含めた本質を理解することが大切だということです。事例を参考にすることは重要ですが、他社の事例がそのまま自社の顧客に当てはまることは少ないからです。

第三に、個客を理解し、さらにそのコミュニティを俯瞰することです。そうすることで新しい分析結果と示唆が現れます。

これらを実施するためには、顧客に紐付いたデータの、組織の壁を超えた統合が不可欠です。データを通じて顧客理解を深め、最終的にDXにつなげる。それによって、ビジネスはさらに成長できるはずです。

今回はアパレル業界とゲームアプリ業界のお客さまの事例をご紹介いたしましたが、インキュデータでは業界・業種を問わずDXの推進をサポートする活動を行っています。

自社の戦略に沿ったかたちでDXを推進するといっても、何から手をつけていいのかわからないという声も非常に多く頂戴しています。まずは相談相手としてでも構いません。私たちと一緒に、課題とアイデアを整理することからDXの推進を始めてみませんか?



※1:LTV(Life Time Value): 顧客生涯価値。ある顧客が一生のうちに、自社製品やサービスを購入、利用する合計値または利益の合計値のこと

※2:O2O(Online to Offline): ネット上(オンライン)から、ネット外の店舗など(オフライン)での行動へと促したり、オンラインで提供する情報によりオフラインでの購買行動に影響を与えるような施策のこと。

※3:OMO(Online Marges with Offline): O2Oがオフラインへの誘導を目的にするのに対し、オンラインとオフラインを融合させて新たな顧客体験や購買行動を創造する施策のこと

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