INCUDATA Magazine_000242_日経データサイエンティストジャパン 2021 イベントレポート - データサイエンスによる顧客理解の深化とビジネス変革

日経データサイエンティストジャパン 2021 イベントレポート - データサイエンスによる顧客理解の深化とビジネス変革 -

目次

データが企業経営における重要な資産となっている今、データによるビジネスの変革を担うデータサイエンティストが脚光を浴びています。そうした中の2021年3月31日(水)、日経XTECH主催によるオンラインセミナー「データサイエンティスト・ジャパン2021」が開催され、インキュデータの田村覚が「データサイエンスによる顧客理解の深化とビジネス変革」と題して講演を行いました。その概要をお届けいたします。

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インキュデータ株式会社 
データビジネスコンサルティング本部 
ソリューションストラテジー部 部長(※) 
田村 覚

国際教育機関を経て、2013年に外資系マーケティングリサーチ企業に入社。データアナリストとしてメディア業界、家電業界などのリサーチ及びコンサルティングに従事。データを活用したマーケティング戦略立案や新規事業開発などを手掛ける。
その後、メディア企業にて全社データ統合/活用プロジェクトを担当。BIツールによる可視化や各種ツールを活用したOne to Oneマーケティングを推進した。
並行して、2019年より、筑波大学大学院にて統計学を活用したマーケティング施策高度化の研究に努めている。
2020年よりインキュデータに参画。DX領域におけるコンサルティングに従事。

 ※役職等は講演当時のものです

田村は冒頭「顧客データ」起点で企業のデジタルトランスフォーメーションを支援するインキュデータのコンサルティングサービスを紹介してから本題に入りました。
本講演のアジェンダの流れとしては、「データサイエンスを取り巻く現状」に触れた後に「ビジネス変革に向けた顧客理解の変化」を説明した上で、具体的な事例を紹介しました。

01.データサイエンスを取り巻く現状

VUCA”の時代に求められるデータ活用スキル

いま、世界情勢は不確実性や不透明性を増した“VUCA”(Volatility:変動性・不安定さ、Uncertainty:不確実性・不確定さ、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性・不明確さ)の時代と言われています。従来、ポジティブに捉えられていた「経験の豊富さ」「予測をもとにした精緻な計画」「周辺環境への最適化」といったことの価値が相対的に低減し、不確実で複雑な変化により柔軟に対応できることの価値が高まっていると言えます。
「では、そのような“VUCA”の時代に求められるデータ活用スキルとは、どのようなものと思われるでしょうか?」と田村は問いかけ、よく言われていることとして五つの例を挙げました。

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そこで田村は、インキュデータの考えるビジネス変革において求められる能力について「問題“解決”能力は確かに重要ですが、今ではそれ以上にデータの背景を深く考え、自社や世の中の課題を設定する問題“発見”能力が重要ではないかと考えます」と述べました。
これを受け、データサイエンティストに求められるスキルの変化について説明しました。

“つなぐ”データサイエンティストが重要になる

データサイエンティストに求められるスキルは「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」で構成されると言われています。

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これまでは、図の左側のように三つの力は等しく必要とされてきました。「しかし、これからは右側のように“ビジネス力”がより大きく求められるようになると思われます」と田村は述べ、その理由として「Google Cloud AutoML」や「Azure Machine Learning」「DataRobot」と いったGUIで操作できるデータ活用・分析ツールの進化や、データエンジニアリング・分析ベンダーの急増、さらには大学における「データサイエンス学科」の設立ラッシュにより、統計スキルやIT言語スキルの民主化が進展していることを挙げました。自社で全部を賄わなくても、こうした外部の力を活用することで、データサイエンス力やデータエンジニアリング力をカバーできる時代になっています。
「社内のデータサイエンティストはそのスキルさえ伸ばしていけば済むわけではありません。これからは、ビジネスサイドと、データサイエンティストの間をつなぐデータサイエンス人材が重要になると思います」と田村は言いました。

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02.ビジネス変革に向けた顧客理解の変化

顧客の異質性を考慮したOne to One施策の重要性

田村はまず「コトラーのマーケティング4.0」から引用した図を示し、次のように説明しました。

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「ECやSNSなどによるデジタル経済が進展し、カスタマージャーニーの質が変化していることをしっかり押さえた上で、伝統的マーケティングとデジタルマーケティングを統合し、顧客をきちんと理解した上で接続的にアプローチしていくことが重要です」
こうした背景のもと、多様化する顧客の嗜好への対応として、従来のマスでの対応ではなく顧客の異質性を考慮したOne to Oneでの施策がより重要となります。

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「経験と勘に基づくマーケティング施策ではなく、顧客データに基づいて“いつ”“誰に”“何を”“どのように”マーケティング施策を行うかという設計を行うことが重要です」と説明しました。

では、こうしたOne to Oneマーケティングはどうやって実現すればいいのでしょうか。

「まずは、顧客のカスタマージャーニーを把握するためのデータ統合が不可欠となります。そのためにデータ統合基盤(CDP:Customer Data Platform)を構築し、これを基に顧客一人一人の行動や興味の理解を深めて施策を展開していくことが必要となります」と田村は言いました。

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One to Oneの施策を高度化

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ここで田村は、「データを統合すればそれでいいわけではなく、留意すべきことがあります」と、“Garbage In, Garbage Out”(ゴミからはゴミしか生まれない)という言葉を紹介。「顧客データ統合基盤を構築する際は、分析・活用をするためのビジネス仮説をもってデータを収集・統合しているか、データをクレンジングした上で分析用の価値のある状態に変換しているかといったことに留意する必要があります」と説明しました。

こうして構築したCDPで顧客一人一人に紐づく形にデータを統合し、顧客の理解を深め、機械学習や統計解析といったスキルを用いて顧客のインサイトを見出し、施策に繋げていくことがOne to Oneマーケティングの高度化に求められることです。
「顧客のインサイトを深掘りすることで、それまで見えていなかった生涯価値の高い優良顧客の発掘や優良会員への引き上げ、解約しそうな顧客の特定に繋げることが重要です」と田村は説明しました。

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03.事例の紹介

次に、インキュデータが手がけた大手家電メーカーであるお客さまの事例について紹介しました。

そのメーカーにおいては、製品自体のコモディティ化が進む中で差別化が難しくなっている現状があり、性能やブランドの競争から顧客価値の競争にシフトすることが課題として掲げられました。

そこで、顧客一人一人の理解を深めるためにCDPを構築し、統計解析を活用して見込み客育成や商談化の増加に寄与したというケースです。

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具体的には、顧客一人一人を軸にWebアクセスログやPOSなどの多種多様なデータを統合し、デジタル広告やメールなどの様々な施策に活用しています。

「そのプロセスにおいて、データサイエンティストの知見を活用しています」と田村は話し、具体的なプロジェクトのフローを説明しました。

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「このプロジェクトの目的は、いかにビジネスに価値を生むかということ。したがって、そういったデータ活用の姿から逆算してプロセスを構築しました。最重要のフェーズは一番初めの、正しい問題の設定です。ここがうまくできなければ向かうべきベクトルが違ってしまうからです」と田村は強調し、主要なプロセスを説明していきました。

問題発見のための諸部門へのヒアリングの結果、エンドユーザーとの間に販売店が介在することで、メーカー自身がエンドユーザーのデータをあまり持てていないことにより一律的なマーケティングアプローチしかできていなかったという課題が浮上。そこで、施策に向けてメーカーとインキュデータの経験をベースに仮説を立案し、必要なデータの検討を行いました。

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次に、データ収集方法を設計しデータ選別とCDPへの取り込み、分析目的に応じたデータクリーニング、個人に紐づいた形でのデータ統合といった手順を説明しました。

「いきなり高度な機械学習などを用いるのではなく、ここまで前処理を行うことにより、精度の高いデータ分析が実現できました」と田村。

基礎集計や可視化による基本情報を把握し、商品購入者と非購入者の違いを分析するなどしてエンドユーザーの行動を把握した上で、モデルを構築したことが説明されました。

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その結果得られたインサイトを用いて、購入まで遠いか近いかといった顧客のリードスコアのリスト化を行い、それに基づいたアプローチを継続的に行えるような運用フローを構築しました。

「つくったら終わりではなく、効果測定もしっかり行ってその結果をCDPにフィードバックし、より精緻にするPDCAを回していくことが重要です」と田村は説明しました。

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本題はここまでで終わり、改めて以下の点を強調しました。

  • VUCA時代のデータ活用に大切なのは、問題”発見”能力。統計やエンジニアリングは問題解決のための手段である
  • デジタル経済におけるカスタマージャーニーの変化に伴い、顧客の異質性を捉えたOne to Oneマーケティングの重要度が高まっている
  • ビジネス変革のためには、顧客ごとにデータを統合するための基盤と、顧客一人一人を深く理解するための分析手法が有用である

「素人のように考え、玄人として実行する」

そして最後に、田村はデータサイエンスによる顧客理解進化とビジネス変革のための大切な考え方として、カーネギーメロン大学ロボティクス研究所長・教授や産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター長などを歴任した金出武雄氏の言葉「素人のように考え、玄人として実行する」を紹介しました。「ビジネスをしていく中では、どうしても自分よがりの考え方に陥るもの。それではエンドユーザーの考えはわかりません。なぜ自社の商品を選んでくれたのか、素人としてその背景をデータから探り、実行に移す局面ではプロとしてデータサイエンスの知見を活用する。この両側面の考え方が大切であると考えます」と締め括りました。

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