DX成功のカギは顧客データの循環にあり - コロナ流行で待ったなし!DXを実現する方法を知る -
世界中の企業が、市場での勝ち残りをかけて取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)。新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行によって、人と人との接触が制限されるなか、人々の暮らしや仕事におけるデジタルテクノロジーへの依存度は以前にも増して高まり、企業にとってDXの遂行はまさに急務の課題となっています。では、DXを推進し、成功に導くには何が必要とされるのでしょうか。その答えを考察いたします。
そもそもDXとは?
近年、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というキーワードを目にする機会が増えているはずです。このワードを目にするたびに、「なぜ、DXにこれほど注目が集まるのか」「そもそも、DXとは何なのか」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。DXとは、デジタルテクノロジーによって市場での競争優位を確立する取り組み全てを指す言葉です。AI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といったデジタルテクノロジーを使って、社内業務の省力化・自動化を実現することもDXといえますし、顧客との接点や商品(製品/サービス)の販売チャネルをデジタル化することもDXの取り組みです。
また、既存の製品/サービスをデジタルテクノロジーによって変革し、顧客にとっての付加価値を高めたり、データに基づいて経営上の意思決定をスピードアップしたりすることも、もちろんDXです。さらに、これらのDXによって既存ビジネスを強化し、収益の増強を図った上で、新規ビジネスを創出し、新市場の開拓に乗り出すこともDXです。
時折、DXの取り組みを、デジタルテクノロジーで新たなサービスを生むプロジェクトと見なす方も見受けます。しかしながら、DXは、デジタルテクノロジーとデータを使って会社そのものを変革し、市場での競争優位を確保するための継続的な取り組みです。その点で、期限のあるプロジェクトとは異質のものといえるでしょう。
なぜ、DXが必要なのか?
では、なぜ、DXが必要とされているのでしょうか──。
理由の一つはデジタルテクノロジーが、人々の生活の中に広く、深く浸透していく中で、オンライン上で顧客との接点を保つことの重要性が高まり続けていることです。
例えば、今日における時価総額の世界トップ10の顔ぶれを見ると、いわゆるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やマイクロソフト、アリババ・ホールディングスなどの企業が名を連ねていますが、これらの企業に共通しているのは、生活者とモノやサービスとの接点を握るプラットフォーマーであるという点です。
プラットフォーマーを簡単に言えば、即売展示イベントの主催者のような存在です。イベントの主催者は、自社の集客力を背景に、出展者を集め、生活者にモノやサービスを販売できる機会を提供します。プラットフォーマーも、自社の製品・サービスに対する圧倒的な集客力をテコに、パートナーを集めて、多くの生活者にアプローチできる機会を提供します。しかも、リアルなイベント会場とは異なり、優れたデジタルプラットフォームのスケールは巨大であり、集客しうる人の数は、世界の数億人、あるいは数十億人にまで達します。そのため、プラットフォームには、非常に多くのパートナーが自ずと集まり、それがまたプラットフォームの集客力を高めていき、プラットフォーマーのもとには膨大な数の生活者のデータ(顧客データ)が日々蓄積されていくことになります。プラットフォーマーは、そのデータを活用して顧客の変化を捉えながら、最新のデジタルテクノロジーを使ってサービスをスピーディに進化させ、市場での支配力を強めていくことができるのです。
もっとも、特定の強大なプラットフォーマーに市場における顧客との接点を握られると、その市場で一定の地位を確保してきた企業の多くが、顧客との接点を失い、これまでどおりの競争力を維持することがままならなくなります。事実、Amazonは、Eコマースのプラットフォームによって小売業界の勢力図を一変させるようなデジタルディスラプション(デジタルテクノロジーによる創造的破壊)のうねりを巻き起こしました。また、金融業界でも、生活者と金融サービスの接点がFintech(フィンテック)ベンチャーに握られ始め、業界内では顧客との接点を取り戻すべく、Fintechの取り込みに力を注いでいます。
現在、そうしたデジタルディスラプションがあらゆる業界で引き起こされ、各業界でリーダー的なポジションにある企業が地位を失うとの懸念も広がっています。ある2019年調査によれば、業界トップ10社の平均3分の1強の企業が、向こう5年以内にデジタルディスラプターの台頭によって市場での地位を失うと予想されています(図1)。
これを言い換えれば、多岐にわたる業界で市場での地位を守るには、DXへの取り組みが不可欠との認識が広がっていると見ることもできます。
さらに、コロナ禍によって人と人との接触が制限されるなか、日々の暮らしや仕事でのデジタルテクノロジーへの依存度、あるいは利用頻度はさらに高まり、日本では、数年分の業務プロセスのデジタル化が一挙に進んだとされています。
となれば、各業界に対するデジタルディスラプターによる攻勢が始まるタイミングも大方の予想よりも早まる可能性もあります。その意味でも、DXの実現に乗り出すこと、あるいは、DX推進の速力を上げ、市場での地歩を固めることは、待ったなしの取り組みといえます。また、コロナ流行をきっかけに社内業務のデジタル化を進めざるを得なくなったいまこそ、DXによって市場での競争優位を確立するための道筋を描き、そのための基盤を築く好機ともいえるのではないでしょうか。
DX成功のカギ
DXの推進が待ったなしの取り組みとなれば、気になってくるのは、DXをどう実現していくかの手法であるはずです。
それをご紹介するために、ここでは日本の基幹産業である製造業(メーカ)を想定しながら、DXを実現する方法のエッセンスをご説明いたします。
まず、製造の領域では、かねてから「モノづくり」から「コトづくり」にシフトすることの大切さが唱えられ、機能・性能に優れたモノを作り、提供するだけではなく、その製品を購入した顧客が実現したいコトをサポートするアフターサービスを充実させ、それによって顧客との接点を維持するという戦略が採られてきました。また、その中で、技術のコモディティ化が進む家電の分野では、モノとアフターサービスを一体化させた商品を提供するベンチャー企業も登場し、生活者からの相応の支持を集めています。ただ、この業界においても、優れたプラットフォーマーが顧客との接点を握ってしまい、ベンチャー企業を含めた大多数の製造企業が顧客との接点を奪われ、顧客データから差異化の戦略を立てる術(すべ)を失い、単なる価格競争の渦に巻き込まれかねないリスクがあります。
DXの推進は、このような状況に陥るのを回避するための必須施策ともいえるものです。そのDXの取り組みを支えていくために必要なのは、顧客データに基づいてバリューチェーン全体を最適化する仕組みを築き上げることです。
具体的には、顧客ライフサイクル(*)全体を通した顧客行動データや製品サービスのデータを収集し、CDPで統合化し、管理します。そのデータを製品の企画・設計、マーケティング、保守サービスなどに還元し、企画でのUX(顧客体験)の磨き上げや、設計での素早い品質改善、マーケティングでの施策の高度化、保守サービスでの事前サポートなどに活用していくのです(図2)。
こうしたデータと施策の循環によって、顧客データを起点にサプライチェーン全体を変革する活動が社内に定着し、DXが日常化していきます。これにより、顧客のニーズに基づいて製品やサービスを変革して、付加価値を高めるプランが生まれ、それが、新市場の開拓につながる新規ビジネスの立ち上げへと繋がっていくことになります。
データ活用の起点は戦略策定
もっとも、収集したデータをビジネスやマーケティングに還元するサイクルを確立する上では、ビジネスとマーケティング、システムが三位一体となったデータ活用の戦略を描いておくことが大切です。その意味では、以下の順番でDX実現の検討を進める必要があり、実際の施策展開はこの逆順をたどって遂行することが適切といえます。
- 既存事業のノウハウやデータをテコにした新規市場開拓/新規事業創出までを視野に入れた戦略を立案する
- 顧客に対して「継続的な価値」が提供できるようなビジネスにトランスフォーメーションする方法を検討する
- 顧客ライフサイクル全体を通した顧客行動データを収集し、ビジネス/マーケティングに対してすばやく還元できるプラットフォームを構築する
なお、生活者・顧客を中心にしたデータ活用の戦略を立て、計画へと落とし込み、データ活用のためのプラットフォームをCDPで構築する流れは、製造業(メーカ)だけではなく、全ての業界の企業に共通したDX実現の手法といえます。インキュデータでは、それにプラスして作成したデータ活用の戦略を遂行するチーム作りを支援するコンサルティングサービスを提供しています。ご興味のある方はぜひ、ご連絡ください。