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使われるダッシュボードを作るための要件定義と運用設計 -

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ビジネスの現場で、蓄積された膨大なデータを意思決定にどう生かすかが競争力を左右する時代になりました。その中で「ダッシュボード」は、重要な指標を把握し、リアルタイムな判断を可能にするツールとして、多くの企業で導入が進んでいます。

しかし、単にツールを導入しただけでは成果にはつながりません。「誰のために」「何を目的に」「どのような情報を」見せるのかが曖昧なままでは、ダッシュボードが現場で使われず、形骸化してしまうリスクも高まります。

実際、「情報が見づらい」「更新されない」「目的が不明確」といった状況に陥ってしまい、使われないツールになってしまうケースは少なくありません。

本記事では、現場に定着し、意思決定を後押しするダッシュボードを実現するための要件定義と運用設計の最適な進め方を解説します。

ダッシュボード作成における要件定義の重要性

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ダッシュボードの導入は、単なる可視化ツールの導入ではありません。業務の意思決定や現場の行動を変える仕組みを作るプロジェクトであり、その成否を分けるのが要件定義の精度です。

特に多くの企業で見られる失敗は、「とりあえずデータを見られるようにしてほしい」という漠然とした依頼で開発がスタートし、完成後に「使いづらい」「欲しい情報がない」といった不満が噴出するパターンです。

このような事態を避けるためには、開発前に何を目的とし、誰のために、どのような情報を、どのように提供するのかを明確に定義する必要があります。

要件定義を疎かにすると、一見立派に見えるが誰にも使われないダッシュボードが出来上がってしまいます。逆に、利用者視点に立った要件定義を丁寧に行えば、業務に深く根差し、現場で手放せないツールとして定着させることが可能です。

ダッシュボードによって、必要な情報を元にスピーディーに意思決定をし、行動を変えるためにも、設計の時点で要件定義をしっかりと行うことが重要です。

目的別のダッシュボードの種類

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一口にダッシュボードと言っても、使われる目的や立場によって求められる設計や情報の種類は大きく異なります。業務の即時対応を促すものから、経営判断や施策の評価まで、多様なニーズに応じて使い分けることが重要です。

ここでは、代表的な三つのタイプを取り上げ、それぞれの役割や構成要素、活用シーンについて詳しく解説します。

モニタリング用ダッシュボード

モニタリング用ダッシュボードは、業務のリアルタイムな状況を把握することを目的に設計されます。

例えば、売り上げの速報値、在庫の残数、Webサイトのアクセス数、製造ラインの稼働状況など、日々あるいは分単位での変化を即座に確認したいケースに用いられます。

このタイプのダッシュボードは、現場担当者やオペレーション管理者など、日常業務を遂行する立場の人が多く利用するため、複雑な分析機能よりも、現状をひと目で把握できるシンプルな構成が重視されます。

特に、異常値やトラブルの早期発見が求められる現場では、色やアイコンを使ったアラート表示など、即応性のあるデザインが重要です。

戦略立案用ダッシュボード

戦略立案用ダッシュボードは、経営層やマネージャが中長期的な判断を行うために使用する分析型のダッシュボードです。

顧客データの分析を行うケースは、属性情報や購買履歴といった静的なデータに加え、行動ログや利用頻度、チャネル別エンゲージメントなどの動的な指標を複合的に扱います。

その結果、リピート率の高い顧客の共通点や高LTV顧客が離脱する前の兆候、広告施策ごとの顧客定着率など、経営層が注視すべき中長期の傾向を可視化できます。

また、戦略立案用ダッシュボードを通じて、複数の部門や施策との関連を見える化することで、個別最適ではなく全体最適の戦略策定が可能になります。

例えば、マーケティングでは獲得コストとLTVのバランスを評価し、営業ではクロスセルやアップセルの成否を分析、カスタマーサクセスではチャーン防止策の効果を分析した上で、リソース配分の意思決定をすることができます。

効果測定用ダッシュボード

効果測定用ダッシュボードは、特定の施策やプロジェクトがどれだけ成果を上げたかを評価するためのダッシュボードです。

例えば、新しいマーケティングキャンペーンを実施した後に、コンバージョン率がどう変化したか、業務改善施策を導入した結果、作業時間やエラー件数がどのように変わったかを可視化します。

このタイプのダッシュボードでは、施策の前後を比較する視点が重要で、数字の変化を明確に示す構成が求められます。

また、必要に応じてドリルダウン機能を備え、成果が出た要因や出なかった原因を分析できるようにしておくと、次のアクションへのフィードバックとして機能します。

関連記事:KPIダッシュボードとは?概要・メリット・活用方法・選び方について詳しく解説!

ダッシュボード要件定義の精度を高める5W1Hの視点

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ダッシュボードを有効に機能させるためには、構築前の「要件定義」の質が成否を大きく左右します。

その精度を高めるために非常に有効なのが、5W1H(Why・Who・What・When・Where・How)の視点です。

ここでは、それぞれの要素について、実務での考慮ポイントとともに解説します。

どのような目的か?(Why:業務課題)

最初に検討すべきは、「なぜダッシュボードが必要なのか」「何を解決したいのか」といった業務上の目的です。

目的が曖昧なままでは、表示する情報や機能の選定に一貫性がなくなり、あれもこれも詰め込んだ使いづらいダッシュボードになってしまいがちです。

例えば、「売り上げの進捗を毎日把握して営業判断を早めたい」「在庫の過不足をリアルタイムに監視し、欠品や廃棄を防ぎたい」といった、具体的な業務課題や意思決定の改善目標を明文化することで、構成の方針が明確になります。

誰が使うのか?(Who:ユーザ)

次に明確にすべきは、このダッシュボードは誰が使うのかというユーザの特定です。

営業担当者、経理部門、マネージャ、現場オペレーター、経営層など、利用者の立場によって必要な情報の粒度や視点は大きく異なります。例えば、現場担当者にはリアルタイムの状況が重要であり、経営層には中長期の傾向やKPIの進捗が必要です。

また、同じ業務部門でも役職や業務内容によって必要とする情報の範囲や頻度、操作の習熟度も異なります。

したがって、主要ユーザを絞り込み、その人がどの業務フローのどの場面で何を見るかを想定して設計することが不可欠です。

何を可視化するのか?(What:KPI・指標)

目的とユーザが定まったら、それを達成するためにどのような情報を、どのような指標で可視化すべきかを考えます。

ここで重要なのは、実際に現場の行動に結びつくKPIや指標を選ぶことです。単に数値を並べるだけでは意味がなく、アクションにつながるかどうかが基準になります。

例えば、営業活動の改善を目的とする場合、月間売上だけでなく、訪問件数や案件化率、商談ステータス別の推移など、行動の結果に直結する指標を盛り込むと、より実践的なツールになります。

また、指標は取得可能なデータに基づいているかどうかも重要な確認ポイントです。

いつ使うのか?(When:利用タイミング・頻度)

朝礼や週次会議など、利用される時間帯や頻度により、データ更新のタイミングや表示内容の設計が変わります。即時性と網羅性のバランスも考慮が必要です。

どこで使うのか?(Where:利用場所・デバイス)

PC・スマホ・タブレットなど、利用する場所やデバイスによってUI設計は変わります。使用シーンに応じた画面構成や表示の工夫が求められます。

どのように使うのか?(How:操作方法・運用フロー)

誰がどのように操作・更新し、改善に活かすのかを明確にします。操作のしやすさと機能の深さのバランスをとることで、継続的な活用が可能になります。

ダッシュボードの要件定義を進める五つのステップ

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開発前の要件定義を丁寧に行うことが、活用されるダッシュボードを実現するために重要だといえるでしょう。

ここでは、実際にダッシュボードの要件定義を進める際に有効な五つのステップを紹介します。

ステップ1:目的と課題の明確化

最初のステップでは、ダッシュボードを導入する目的を明らかにし、それがどのような業務課題に基づいているのかを具体的に整理します。

ここで重要なのは、関係者全員が同じ方向を向けるように、目的を定性的な表現だけでなく、定量的な目標や実際の業務シナリオに落とし込むことです。

例えば、売り上げの進捗をリアルタイムに把握するといった目的も、さらに深掘りすれば営業マネージャが毎朝チームの達成状況を確認し、日中の行動指示に活かしたい、といった具体的な課題に結びつきます。

この段階で課題が曖昧なままだと、後の設計でブレが生じ、結果的に使われないダッシュボードが生まれてしまいます。

ステップ2:ユーザとユースケースの特定

目的を明確にした後は、そのダッシュボードを誰が、どのような場面で使うのかを具体的に特定します。

ここでは、対象ユーザの職種や役職だけでなく、業務プロセスの中でどのタイミング・どの頻度で閲覧するのか、使用するデバイスや環境なども含めて整理することが重要です。

例えば、営業マネージャが外出先からスマートフォンで進捗を確認するのか、経理担当者が週次レポート作成のためにPCで集中的に分析するのかで、表示内容やUI設計に大きな違いが出てきます。

ユースケースの想定が曖昧だと、実際の業務と乖離した設計になり、定着率が下がる原因になります。

ステップ3:KPIと指標の設定

ユーザと利用シーンを明確にしたうえで、そのダッシュボードに表示すべきKPIと指標を設定します。

KPIは業務目標の達成度を測るための重要な指標であり、その下位に配置される指標群(売上件数、来店数、問い合わせ件数など)が、KPIを構成する要素として選定されます。

ここで気をつけたいのは、選んだ指標が実際にデータとして取得可能であるか、かつ現場での行動につながる内容になっているかという点です。

過去のデータ蓄積やシステム構成により取得できない指標を無理に設定すると、実現できない設計になりがちです。

また、指標が多すぎると本来の目的がぼやけるため、表示する情報の優先順位づけも同時に行う必要があります。

ステップ4:データ要件の整理

次に行うのが、必要なデータの洗い出しと要件の整理です。

ここでは、どのシステムからどのデータを取得するのか、どの粒度(例:日次・週次・月次)で取得するのか、どのタイミングで更新されるのかを明確にします。

また、データの欠損リスクや整合性、クレンジングの必要性など、品質面の確認も非常に重要です。

さらに、異なるシステムから統合してデータを扱う場合は、データの形式や結合キーの一致性も確認しておく必要があります。

この段階での設計が甘いと、後の構築フェーズで再設計が発生したり、ダッシュボードの信頼性が損なわれるリスクにつながります。

ステップ5:ダッシュボードの設計

最後に、実際のダッシュボード画面の設計を行います。

ここでは、ユーザにとって視認性が高く、目的の情報にすばやくアクセスできるよう、UI/UXの工夫が求められます。情報の並べ方やチャートの種類、配色、ナビゲーションの構成など、直感的な操作が可能かどうかがカギとなります。

また、更新頻度や表示デバイス(PC・タブレット・スマートフォンなど)に応じて、レイアウトやデータ量を調整することも必要です。

複数の部署で共通利用する場合は、フィルタ機能やアクセス権限の設計も含めて検討しておくと、運用フェーズに入ったときの混乱を防ぐことができます。

関連記事:ダッシュボードの作り方を9つのステップで解説!成功のポイントも紹介

UI/UX観点で考えるダッシュボード設計

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ダッシュボードの価値は、どれだけ見栄えが良いかではなく、必要な情報にスムーズにアクセスできるか、理解しやすい形で表示されているかにかかっています。

いかに多くのデータを集約していても、ユーザが情報をすぐに把握できず、操作に迷ってしまうようでは意味がありません。

ここでは、UI(ユーザインターフェース)とUX(ユーザ体験)の両面から、ダッシュボード設計で重視すべきポイントを解説します。

わかりやすいグラフ・チャートの選び方

ダッシュボードに表示するデータは、単に表や数値で見せるよりも、目的やデータの性質に合ったグラフやチャートで視覚化することで、ユーザの理解度と判断スピードが格段に向上します。

例えば、時系列の変化を見せたい場合は折れ線グラフが適しており、項目ごとの比較には棒グラフ、構成比を示すには円グラフやドーナツチャートが有効です。

また、売り上げや数値の増減を強調したい場合には、ウォーターフォールチャートのような構造的なグラフも有効です。

グラフの種類だけでなく、色使いや注釈の有無も重要です。具体的には、異常値や達成・未達を示すラインを色で明確に分ける、傾向の変化に注釈を入れるなど、視覚的な助けを加えることで、情報の伝わりやすさが大きく向上します。

レイアウトとナビゲーションの最適化

ダッシュボードの設計においては、どこに何を配置するか、そしてユーザがどのように画面を操作するかという視点が非常に重要です。

とくに、業務で日常的に使用されるダッシュボードでは、ひと目で判断すべき情報がすぐ目に入るような構成が求められます。

最も注目されるべき重要な指標やKPIは、画面を開いて最初に見える位置(ファーストビュー)に配置し、詳細な情報や補足データは、タブやドリルダウン機能を用いて階層的に整理します。

こうすることで、情報の優先順位が明確になり、ユーザの視線移動や操作負荷を最小限に抑えることができます。

また、フィルター機能や条件の切り替えボタンなど、操作性に関わる要素は、誰が使っても直感的に理解できる配置やデザインにすることが不可欠です。

操作に慣れていないユーザでも迷わず扱えるよう、アイコンやラベルの表記にも配慮する必要があります。

関連記事:ダッシュボードによるデータ分析とは?基本機能やメリット・設計ステップ・おすすめツールを解説

ダッシュボードの構築と運用を成功させる三つのポイント

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ダッシュボードは構築して終わりではなく、いかに現場で定着し、継続的に使われ続けるかが成功を左右します。

ここでは、ダッシュボード導入を成功に導くための三つの重要なポイントを紹介します。

経営層と現場のギャップを埋める

ダッシュボードの導入を成功させるには、経営層の戦略的な意図と、現場の実務ニーズとの間にある意識のギャップを埋めることが不可欠です。

以下では、そのために意識すべき三つの観点を紹介します。

価値の共有を意識した設計

ダッシュボード導入の目的や期待される成果は、現場にとって抽象的に見えることがあります。そのため、KPIや指標がどのように業務改善につながるのか、現場目線で具体的に説明することが求められます。関係者全体で価値の方向性を共有する設計が、実装後の活用度に直結します。

安心感の醸成による導入促進

新しいツールの導入には不安がつきものです。特に業務プロセスの変更が伴う場合、現場は負担や混乱を懸念します。現場に則した業務プロセスを設計し、段階的な導入やトライアル期間を設けることで、不安を軽減し受け入れやすくすることができます。

本気度の共有で得る現場の信頼

ダッシュボード活用が組織にとって重要な取り組みであることを示すためには、経営層の関与が不可欠です。プロジェクトへの参加やフィードバックを経営層が積極的に行うことで、現場に対して本気度が伝わり、導入への納得感と信頼を得ることができます。

運用定着を見据えたモックアップとロールプレイの活用

現場ユーザとの認識のズレを最小限に抑えるには、モックアップやロールプレイといった手法が効果的です。以下に、それぞれのメリットを整理します。

モックアップで可視化するメリット

要件定義だけでは伝わりづらいイメージの共有を、モックアップ(試作画面)で視覚的に行うことで、ユーザの理解を促し、潜在的なニーズや改善要望を引き出すことができます。開発前に見える化することで手戻りも防げます。

ロールプレイで業務をシミュレーション

実際の業務フローに沿ったロールプレイ(業務再現)を行いながらモックアップを操作することで、使用感や課題が具体的に浮かび上がります。ユーザ自身が操作することで、ダッシュボードが業務にどう活かされるかのイメージが明確になります。

関係者全員がコミットする運用と改善

ダッシュボードは、完成した瞬間が終わりではなく、むしろ運用開始後が本当のスタートです。継続的に使われ、改善されていく仕組みを持たなければ、次第に使われなくなってしまいます。

そこで重要となるのが、運用フェーズにおける関係者の継続的な関与と改善サイクルの構築です。

PDCAサイクルを回すダッシュボード運用

ダッシュボードを一度作って終わりにせず、定期的なKPIレビューや運用効果の分析を行い、改善策に反映させることで、継続的に価値を生み出す仕組みに育てていくことが重要です。PDCAサイクルを運用プロセスに組み込むことが効果的だといえるでしょう。

使われなくなるリスクの防止策

時間の経過とともにダッシュボードが陳腐化し、使われなくなるリスクを避けるためには、現場の声を継続的に取り入れる仕組みが必要です。定期的なヒアリングやアンケートを通じて、不要な情報の削除や新しい機能の追加を行うことで、常に現場にフィットした状態を維持することができます。

関連記事:検索しやすいデータ分析基盤を構築するには?導入メリットと設計のポイントを解説

まとめ

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ダッシュボードは、単にデータを見せるためのツールではなく、現場の行動を促し、意思決定を支援する仕組みです。だからこそ、構築にあたってはツールの選定やデザインだけでなく、ユーザ視点に立った要件定義や運用設計が極めて重要となります。

本記事では、目的に応じたダッシュボードの種類から、5W1Hによる要件定義、設計・運用フェーズでの実践的なステップ、さらにUI/UXや導入後の活用定着に向けたポイントまで、総合的に解説しました。

ダッシュボードを使われるものとして定着させるには、現場との対話を重ね、改善を前提とした柔軟な設計と運用が欠かせません。弊社では、目標達成に寄与する指標は何かを分析・定義し、ダッシュボードが実際に使われる仕組みとして定着するよう、導入支援をしています。散在するデータの活用にお悩みがある場合は、お気軽にご相談ください。

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